南九州・南西諸島域における農林水畜産業を中心とした地域生産エコシステム「知とデータの地産地消」 AgriTech Islands & Innovation Coast & Data Ocean Project (AGRIIO)
鹿児島大学がフィールドとする南九州および南西諸島域は,農林水畜産分野を基幹産業とした地域(AgriTech Islands)であり,その周辺には,気象・海象,環境,資源量,生育状況,鮮度・品質,流通・消費等,時間と共に変化するバックグランド(Data Ocean)が広がる(図)。これまで地域での農林水畜産物(Real products)の生産は,効率化および高付加価値化に主眼が置かれ,個々の技術と長年の経験によってこれらバックグランドの影響を回避してきたが,人口減少・少子高齢化の進行,経済のグローバル化や技術革新の急速な進展,地域間競争の激化等の大きな社会的変革期を迎え,かつ激変する地球環境の中では,近く限界を迎えることになる。このような社会変革と激変する地球環境の中,今後の地域での農林水畜産物(Real products)生産は,これら変化に対する強靱性(レジリエンス)および適応の能力を強化し,かつ未来のあるべき社会像をバックキャストすることにより,地域に新たな産業世界に新たなマーケットを創出していかねばならない。地域のリソース(資源)は,ヒト,モノ,カネだけでなく,情報もその一つである。この情報をリソースにするためには,IoT を活用して農林水畜産物(Real products)の生産と同時に生産環境をセンシングしてデータ(Digital products)を蓄積する「農林水畜産物・データ同時生産」が必要である。但しそれには,AI 化やデータを用いた生産活動を推進するためのデータ加工人材「島のデータアナリスト」を地域に育成し,地域に新産業を創出する必要がある。 本学は,「地域の知の中核的拠点」として鹿児島県,市町村,企業・産業界と連携して「マイクロニーズ」を探索・発掘し,それらを磨き上げると共
に,「研究シーズ」の活用,社会実装試験環境「実証フィールド」の整備を通じて,地域(AgriTech Islands)とその周囲に広がるバックグランド(Data Ocean)とを繋ぐイノベーション(Innovation Coast)を創出する役割を担っている。これは「知とデータの地産地消」による新たな地域生産エコシステムであり,その実現のためには,核となる人材「島のデータアナリスト」の育成(教育)も不可欠である。
そこで本センターでは,本事業を地域(AgriTech Islands)とバックグランド(Data Ocean)を大学発イノベーション(Innovation Coast)で繋げることから,AgriTech Islands & Innovation Coast & Data Ocean Project「AGRIIO」と命名し,これをセンターの第4期ミッション戦略事業として実践している。
- Agritech Island:農林水畜産分野を基幹産業とした地域において,生産物(Realproducts) を生産するだけでなく,生産から流通,品質管理,消費,健康等に関わるデータ(Digital products) を生み出すフィールド。
- Innovation Coast:生産物とデータおよび地域とバックグランドを繋ぐ革新的技術・既存汎用技術。
- Data Ocean: 時間変化を続ける食料生産のバックグランドであり,これまで単独でまたは研究用として収集されてきたデータ(Digital products)を生産物(Real products) と同時生産する場であり,生産物と産業を二重化する資源。
- 地域生産エコシステム「知とデータの地産地消」: IoT・センサ技術,データ加工技術,AI・データ利用アプリ開発,ビッグデータ,データセキュリティ,専門人材育成およびデータ流通等のDX 産業が,農林水畜産業・食品加工業および観光産業等の地域の基幹産業を大きく取り囲み,さらに大学が知と人材育成の中核的拠点として加わることにより,データを生産・流通・品質保証等に利用する新たな産業連携関係が農林水畜産地域に集積する概念。
- マイクロニーズ:これまで地域の人々にとって自然・当然な事象であり,課題として認識されていなかったが,地域外の観察者により明確に課題として認識され,かつその解決過程においてイノベーションが期待される潜在的課題 。
- データ(Digital products):生産物およびその生産と並行して収集される生産環境情報をデジタル化したもの。生産物のデータ化は生産後すぐにまた生産環境データの収集は生産物の生産と同時に行われなければならない。さらにいずれも過去に遡ることができず,そのデータの利用には,加工,保存,セキュリティ管理等の工程が必要である。
- 島のデータアナリスト:生産物データおよびそれと同時に収集される生産環境データは,生産物と同じようにその利用には収集(センサ開発・管理),保存(サーバー管理),セキュリティ管理,加工(プログラミング),販売およびこれらの中に潜在する課題の発掘・解決等の工程が必要である。島のデータアナリストはこの工程を担う新たなDX 産業人材。