研究代表者

農学部附属焼酎・発酵学教育研究センター  特任助教・奥津果優

地域課題および目的

地域課題
南西諸島における黒糖の生産量は,サトウキビ収穫量に左右される.そのためサトウキビが豊作の年は,多量の黒糖が利用されることなく余剰在庫として貯蔵されている.現在貯蔵されている黒糖は1万トン以上にのぼり,その有効活用が望まれている.

目的
貯蔵黒糖を用いたスピリッツを開発する.

研究の方法

過去の研究により,貯蔵黒糖から製造したスピリッツは,新糖を用いた場合に比べて甘香や甘味が減少し,嗜好性が低下することがわかっている.そこで,貯蔵黒糖を用いた場合でも甘香及び甘味が強くなるスピリッツ製造法を検討する.今年度は発酵時のもろみpHを調整することによる酒質の改善を試みた.旧糖 (2018年度産) を水に加熱溶解・冷却後,クエン酸溶液もしくは水酸化ナトリウムによりpH調整 (pH 3.0, 3.5, 4.0, 6.0) を行なった.その後酵母を添加し,30℃で9-11日間発酵させた.発酵後のもろみを常圧蒸留し,スピリッツを得た.対照としてpH調整を行なっていない旧糖もしくは新糖 (2020年度産) についても同条件でスピリッツを製造した.得られたスピリッツについて,官能評価並びにGC-MS分析を行い,酒質の比較を行なった.小仕込み試験の結果,全てのもろみにおいて酵母数10^8cells/ml以上,アルコール12-13% (v/v) となり,発酵が順調に進んだことが確認できた.新糖と旧糖で発酵経過やアルコール濃度に大きな違いは見られなかったが,もろみpHが低い場合,発酵速度に遅れが見られた.またもろみpHが低いほど揮発酸度が高くなり,酸性条件下のストレスにより酵母が酢酸を生成したことが示唆された.官能評価の結果,貯蔵黒糖で製造したスピリッツは新糖に比べて甘香及び甘味が弱いことが再確認され,もろみpHを低くすることで甘香及び甘味が強くなることが分かった(図1).特にもろみpHを3.5に調整したスピリッツは,新糖を用いたスピリッツに最も近いと評価され,pH調整による酒質の改善が示唆された.一方,もろみpHを高くしたスピリッツはキレイ・辛味が強いと評価され,甘味及び甘香の増強は見られなかった.香気成分分析の結果,旧糖を用いたスピリッツは新糖に比べてエチルエステル類,4VG,ベンジルアルコール,b-ダマセノン,ピラジン類が低いことが分かった.またもろみpHを下げることでエチルエステル類やb-ダマセノンが高くなり,pHを上げることで4VGやベンジルアルコールが高くなる傾向が見られた.ピラジン類については,pH調整による変化は見られなかった.以上の結果から,もろみのpH調整による甘香・甘味の増強は,エチルエステル類やb-ダマセノンが寄与している可能性が示された.

今後の展開

今後の展開 もろみpHを下げることによる酒質の改善が期待できたため,最も甘香が増強できるもろみpHの探索・最適化を行う.さらに来年度は,スピリッツの甘い香味に寄与する成分を同定し,その成分を増強できるスピリッツ製造法を検討する.また本成果はサトウキビ利用加工研究会や本格焼酎技術研究会を通じて,迅速に焼酎メーカー等に広く周知し,貯蔵黒糖の利用を促進する.

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