研究代表者

水産学部 准教授 田角 聡志

地域課題および目的

本プロジェクトでは、カンパチへのハダムシ寄生の防除法開発につながる知見を得ることを目的とし、カンパチの皮膚・鰭において発現する遺伝子の同定を行う。

地域課題および目的

鹿児島におけるカンパチの生産量は日本一で、主要な水産生産物である。しかし、カンパチを宿主とするハダムシの寄生による被害が年々深刻化しており、その防除法の開発が養殖業関係者から強く望まれている。本研究グループは、研究室レベルから現場、さらには政策策定・実施に関わる複数の団体から成り、すでにこれまでに共同研究を実施してきた。これに加えて、本研究では分子レベルの研究を行う。具体的には、ハダムシへの感受性が極めて高いカンパチと、それと比べると低いブリを用いて、ハダムシの寄生組織である両者の皮膚および鰭において発現している遺伝子の同定を行い、発現量を比較する。また、ハダムシはカンパチの鰭において寄生を成立させ、その後皮膚に移動することが知られていることから、鰭と皮膚で発現している遺伝子について発現量の比較を行う。

期待される成果

本研究の成果は、次の段階のハダムシの宿主認識機構の解明に関する研究を進めるうえで重要な基礎的知見をもたらすと考えられる。寄生メカニズムが解明されれば、ハダムシに耐性を示す系統作出や、駆虫効果のある餌料の開発、といった応用研究の展開が想定される。その結果、効果的なハダムシ防除法が開発できれば、特に夏季に行われている、ハダムシ駆除のための淡水浴および薬浴の頻度を減少させることができるなど、地域に大きなインパクトを与えることが期待される。

2020年度の研究成果

本年度は、ハダムシへの感受性が極めて高いカンパチと、それと比べると低いブリを用いて、ハダムシの寄生組織である両者の皮膚および鰭において発現している遺伝子の同定を行っている。これまで両種より各組織のサンプルを採取し、それらからtotal RNAを抽出し、次世代シーケンサーによる解析の委託までを行った。今後、取得データの解析を進めていく予定である。解析は、同一組織について種間で発現量の異なる遺伝子、同一種内について組織間で発現量の異なる遺伝子の同定を行う。今後、本研究で得られた遺伝子リストからいくつかの遺伝子を選び出し、これらがハダムシの宿主・組織特異性に関与しているのかどうかについて、さらに研究を進めてゆく予定である。

これに加え本年度は、両種の皮膚に着目して、体表面に存在する糖鎖に違いがあるかどうかを検討した。その結果、カンパチにおいてブリよりも存在量の多い糖鎖を2つ、ブリよりもカンパチにおいて存在量の多い糖鎖を1つ見出した。これらの糖鎖の違いが宿主特異性を生み出している可能性があるため、今後その点に着目した研究を進めてゆく予定である。

以上のような成果が得られたため、ハダムシの宿主特異性、組織特異性を明らかにしてゆく上で必要となる基礎的知見を得るという、本年度の当初の目的を達成できると考えられる。しかし、現場レベルにおける効果的なハダムシ防除法の開発にまではまだ隔たりが大きい。そのギャップを埋めるため、本年度の成果に基づき、ハダムシの宿主認識機構を詳細に明らかにしてゆくことが必要であると考えられる。

 
図1:ハダムシ(左:光学顕微鏡画像、右:実体顕微鏡)、図2ハダムシが寄生したカンパチ

今後の展開

本研究とは別に、同一の共同研究グループによって、より現場での応用に近いハダムシ防除方法の開発へ向けた研究を現在進めているところである。この研究と本研究とをうまく結びつけることができれば、より確固たる防除方法を確立ことができるものと期待される。そのため、将来的に新たな外部研究予算の獲得を目指して動いてゆくことも考えているところである。しかしながら、これらの研究は他業種にわたる共同研究者と一緒に行うものであるため、今後十分に議論を行い、認識を共有しつつ進めてゆく必要があると考えられる。

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