研究代表者

理工学域理学系 准教授 上野大輔

地域課題および目的

本プロジェクトでは、以下のテーマについて取り組む。

~鹿児島県内の「ウエルネス」に資する地域観光資源について、付加価値の向上につながる学術的PRデータを収集することで地域観光資源を磨き上げる~

研究の概要

鹿児島県には大小様々な605の島があり、多くが琉球列島北部から中部に細長く並びます。島々の気候は同一県内とは思えない程バラエティに富み、地史的要因も加わり生き物の顔ぶれは驚くほど多彩です。今回焦点を当てたいのは、鹿児島最南端の与論島です。小さな島を取り囲むサンゴ礁の状態は極めて良好で、目と鼻の先の沖縄島では見られない手付かずの景色が広がります。また、石灰岩地に発達する鍾乳洞が多い事も特徴で、国内有数の自然豊かな島と位置付けることができます。しかし、隣の沖縄島で盛んに海洋生物研究が進められるのに比べ、与論島に調査の手が入った回数は数える程と言って良く、どこにどのような生物が暮らしているのか未だ明らかになっていません。本研究では、与論の沿岸各地においてスノーケル調査を行い、そこに暮らす生物を調べ、新種、他海域では見られない希少な種、独特な生態を持つ種などを探す試みを行います。

期待される成果

一般的に、島のサイズが小さいことは資源の量が少ないということです。しかし、観光的視点から見ると、短期間の訪問で満足出来るということでもあり、多忙な現代人の魅力的な旅先となり得るポテンシャルを秘めています。今回実施する研究は、与論島が生物学的に豊かで貴重ということを、来訪者により知ってもらうため実施するものです。例えば、鹿児島の観光地各所でみかける案内パネル、観光案内所で配布されるパンフレットは、歴史、文化、風景に関連する内容が多く取り上げられていますが、そこに生物に関するトピックを加えるだけでも、生き物に関心を持つ人が増えるでしょう。専門家の目から与論島の沿岸生物を評価し、目玉となる生き物の話題提供を行います。

2020年度の研究成果

与論島の海岸で磯採集、スノーケル、スクーバ潜水を用いた調査を行い、海岸環境と動物相の把握を目指した。新種や他海域では見られない希少な種、独特な生態を持つ種など話題性の高い種の探索と、良く見られる普通種の分布状況を調査し、観光資源としての活用可能性を探った。その結果、ナマコ、ヒトデ、カニが多く観察できる海岸、サンゴ礁の観察に適した海岸、海岸植生豊かな海岸、地形観察に適した海岸、ウミガメの産卵が観察できる海岸など、海岸毎の特色を生かした観光への利用可能性が考えられた。珍しい生物も多数採集され、現在分類について研究中である。一部については論文として公表済みである。磯で採集されたカニから、新属新種および日本初記録となる寄生性の甲殻類(ワラジムシ類)を計2種、学術誌上で記載、報告した。この成果は、南日本新聞や南海日日新聞などで取り上げられた。

今後の展開

与論島を取り巻く環境と生物の多様さが想像以上に豊かであることが分かり、今後も段階的に調査を実施し、観光資源価値が高い海岸を選定する価値は高いと感じている。今年度は、与論島内でコロナウィルス感染症拡大が起こり、予定していた調査が十分実施出来ていない。また、海岸環境や生物への人々の関わりや利用について、島民への聞き取り調査も行えなかった。与論島は小さなスケールの島の中に、他の琉球列島の島々からは既に失われてしまった複雑な自然環境が良好な状況で残されている。島の魅力としての豊かな自然と生物そのものを、観光の目玉として生かすことが出来る数少ない島である。また、海洋教育や自然科学教育への活用も可能である。今年度十分調査が行えなかった分も含め、まずは来年度も引き続き調査を実施して基礎データ収集を行い、貴重な種の報告を行うとともに、地元と協力して観光資源化に向けた具体的な取り組みを模索したい。

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