研究代表者

農学部 准教授 渡部由香

地域課題および目的

リサイクル水市民利用研究会では以下の2つのテーマについて取り組む。

1.地域の未利用資源であり、地域住民の財産である下水処理水の有効利用を目指す。
2.下水処理水を用いた水耕栽培で得られた農作物を評価し、有用な加工法を探る。

研究の概要

CKD(慢性腎臓病)患者は日本国内で1,300万人(2012年時点)存在する。透析が必要な患者は日本国内で約30万人、鹿児島県では約5,000人で、人口10万人当たりの人数は全国で6番目に多い。CKD患者は腎臓に負担のかからない食事をする必要があり、病気のステージが進むとカリウムの摂取を制限しなければならない。

申請者らは、リサイクル水(河川に放流できる環境基準まで浄化した下水処理水)のみを用いた水耕によるカリウム低減作物の栽培方法を研究し、実用レベルの成果物が得られる段階に達している。この手法で得られた作物を継続的にCKD患者に供給するためには、作物の生産に加え、収穫後の貯蔵・加工を含むフードチェーンを構築する必要がある。

本研究では、カリウム低減作物を原料にジュース飲料(低カリウム野菜ジュース、青汁など)や冷凍食品として加工を行った際のカリウム低減率や、栄養成分の変化を調査したい。また、機能性成分を明らかにし、生産物や加工品に付与できる付加価値を探りたい。

収穫物のカリウム含量はHORIBAコンパクトカリウムイオンメータ、栄養成分、機能性成分の分析は高速液体クロマトグラフを用いて行う。

期待される成果

下水処理施設は地方の小都市には必ず存在するため、産学官体制をとることにより、各地域での事業の展開が可能である。また、下水処理施設は将来的に無くなることがなく、これに関連する事業は半永久的な発展が可能であり、各地域での雇用の増大や持続可能な社会形成に貢献できる。また、付加できる機能性が見いだされれば、一般の消費者向けにも販路が拡大できる。

2020年度の研究成果

ダイコン、サツマイモ、トマト、キャベツ、ケール等数種の野菜についてカリウム低減度を明らかにした。ダイコンについては根の上部、中部、下部でカリウム濃度が異なった。サツマイモについては肥大の状態によってカリウム濃度が異なることが示唆され、栽培法に課題が残った。キャベツは外側の葉と内側の葉ではカリウム濃度が異なり、外側の葉で特にカリウム含量が低くなった。

ケールについては下部の葉でカリウム濃度が大幅に低下した(食品データベースの値の2/5程度)。ケールは青汁など野菜ジュースの原料となるが、カリウム含有量が多く、重度のCKD患者は摂取しないよう指導される。一般的にケールは植物体下部の葉から順に収穫するため、本栽培法での収穫においても下部の葉から順に収穫すれば、カリウム濃度の低い葉を収穫でき、カリウム低減ジュースの原料とすることができると考える。

今後の展開

(株)神鋼環境ソリューションが事業化の可能性について検討中である。まずマーケティング調査を行いたいとのことで、話が進んでいる。ケールはジュースや粉末などの加工品にすることで下水処理水の持つイメージを和らげることができると考えられるため、現時点では最も興味を持たれている野菜である。今後は試食用サンプルの提供などを行い、共同研究契約に繋げたい。
・外部資金により、下水処理場(南部処理場)に栽培施設を増設し、栽培品目を増やす予定である。なお、来年度からは農学部附属農場の遠城道雄教授が栽培面での研究に加わる予定である。
・来年度の第58回下水道研究発表会(主催:公益社団法人日本下水道協会)で発表を予定している。
・その他、NHK鹿児島から長期取材の打診があり、栽培状況や新型コロナウイルス感染の収束状況を考慮しながら、引き続き対応する。

活動実績

7月30日 鹿児島県工業倶楽部セミナー(パネラー参加)

8月13~17日 下水道展かごしま(展示)

10月22・23日 第10回 おおた研究・開発フェア出展

11月11~13 アグリビジネス創出フェア2020出展

サイト内検索